ICI建築講演会「伊東豊雄 建築を語る」が開催されました

12月1日に茨城県取手市にあるICI総合センターで、ICI建築講演会を行いました。
ICI建築講演会は、広く社会的な活動を続けてこられた第一線で活躍している著名な建築家をお招きして、前田建設の主催で年2回ICI総合センターにて行う講演会です。プロデューサーの安東孝一氏による講師へのインタビューを通じて、これからの社会における建築のありかたとデザインの問題をトータルに考えます。

記念すべき第1回は建築家の伊東豊雄氏をお迎えし、建築について語っていただきました。
今回は、1時間半ご講演、その後30分間質疑応答が行われ、約300名の方にご参加いただきました。

講演会では「現代建築の課題」というタイトルで、伊東豊雄氏の育った原風景から、過去の作品とそれぞれに対する思いの振り返り、現在設計中の2025 年大阪万博の大催事場についてお話しいただきました。

***講演内容***

原風景の諏訪湖
以前は原風景が自分の考える建築とは関係無いと思っていましたが、最近かなり影響があるのではないかと思うようになりました。幼少期は諏訪湖畔で育ちました。原風景の中に、2つのキーワードがあり、一方は「静寂な美」、他方は「奔流する力」という、相反する言葉です。
一つ目の「静寂な美」は、私が育った家は諏訪湖に面していました。諏訪湖はほとんど波が立たない静かな鏡のような湖面を見せていました。静寂な美があり、それこそが建築が目指すべきものだと考えています。また、諏訪湖では大変幻想的な水平虹が出る事があり、自分の中で一番美しい風景として記憶しています。
二つ目の「奔流する力」は、一つ目と相反する言葉で激しい流れをイメージさせる言葉です。信州の人は普段は無口の人が多いのですが、7年に一度開催される激しいお祭りの御柱祭(おんばしらさい)を大切にし、それに対する熱い思いを心に秘めています。
上記2つのキーワードに関連して、高麗茶碗好きの父親が「高麗茶碗の魅力は、静寂な美と奔流する力の、矛盾するものが同時存在している」と言い、それは建築にも通じるのかなと考えています。

現代建築の課題
かつての日本の民家は、自然素材でできており、自然の中にあり、自然の一部でした。自然の中から集めた素材で作った竪穴式住居からはじまり、その延長線上に日本の民家があります。今和次郎氏は日本の民家をリサーチしていた先生で、平面図、立面図から、かつての日本の民家も自然の中にある事が分かります。
現代の日本は近代主義に覆われています。具体的には①個人主義②機能主義③技術によって自然を克服できるという思想で、日本の民家の考え方とは大きく異なります。
現在も近代主義思想は継続しており、建築の均質化が進み、ひいては人々の均質化も進んでいます。 

近代主義を超える試み と 具体的な事例
近代主義を超える試みとして、①もうひとつの家をつくる、②部屋ではなく場所をつくる③内にいても自然を感じられる空間をつくること を考えています。具体的な事例を紹介します。

  1. 宮城野区みんなの家(2011年)は仮設住宅に住む人の憩いの場です。縁側、土間、こたつがあり、仮設住宅にはない、もうひとつの家、場所をつくったことで、喜んでくれました。この考え方は避難所のみではなく、公共建築にも当てはまるのではないかと思っています。
  2. みんなの森 ぎふメディアコスモス(2015年)は岐阜県岐阜市にある複合施設です。学生が学校から家に帰る前に立ち寄ったり、子育て中の人が散歩に来たりと、もうひとつの家をつくれたように思います。建築的には、天井から吊られた11個のグローブが特徴的で、内に居ても屋外を感じさせる空間をつくりました。
  3. 水戸市民会館(2023年)は、商業的な側面と文化的な側面の両面を持っている建物で、耐火木材の技術を採用しました。日常的に使われ、市民に愛される2000席のホールをつくりました。
  4. 茨木市文化・子育て複合施設 おにクル(2023年)は、今はガラス面が目立ちますが、今後各階にあるテラスにある植栽がもっと育ち、隣接する公園となじんでいきます。複数の用途があるため、納めるのが困難に思われましたが、結果的には多くの人で賑わってくれています。
  5. 台中国家歌劇院は(2016年)コンペから竣工まで11年かかった台湾の劇場です。施工方法を検討しながら進めていきました。

2025年大阪・関西万博
最後に2025年の大阪・関西万博のプロジェクトです。11月29日にプレス発表が行われたばかりです。1970年の万博の時も途中まで関わり、その時にお祭り広場より岡本太郎作の太陽の塔に人が集まったのが、当時は疑問でした。しかし、今思えばすぐに消えてしまうような未来的なパビリオンに対し、太陽の塔は人々の生命力を謳歌するようなモニュメントで、そこに人が集まったのはわかるようになりました。
2025年の大阪・関西万博では、2000席の大催事場を設計しています。高さ20mの建物で、大きなパラボラアンテナのような屋根と、真っ白な壁の建物としました。内部の壁は、本当は深紅の壁を作成したかったのです。しかし、赤だとプロジェクションマッピングができないとのことで、内外とも真っ白な壁とし、屋根・天井は金色で仕上げ、今回の万博のテーマの「命輝く」を表現しました。

伊東豊雄氏が目指す建築
私がこれからも目指す建築は、①人と人をつなぐ②人に心の安らぎを与える③人に生きる力を与える と考えています。②まではある程度実現できていると思っていますが、③はこれから精進していきたいと考えています。

***講演会を聞いて***
どの施設も、老若男女問わず、街の人が日常的にあたりまえのように建物を利用しているのが印象的でした。目的を持った人が建物に来るのは理由がありますが、それ以上に何かをするというのではなく、もうひとつの家のような存在として目的のない人をも内包する空間を作り出しているのは伊東豊雄氏の、実際に使う人への深い思いが為せる技だと感じました。

第1回ICI建築講演会は多くの方にご参加いただき、盛況のうちに終了することができました。ご参加いただきました皆様改めてありがとうございました。
ご興味のある方は、今後も同様の講演会を継続して開催してまいりますので、ぜひお申込みください。