Build Live Japan

同コンテストは、事前公開される敷地データや設計条件を元に、意匠/構造/設備/統合BIMモデルやプレゼン資料を制作するコンペティションです。前田建設工業を中心とした実務チーム「SKUNK WORKS(スカンクワークス)」は、BIMの最新技術を試す実験場としてBulid Live Japanに積極的に参加しています。


● Build Live Japan 2017

 buildingSMART 賞 

課題敷地   千葉県木更津市鳥居崎海浜公園
従来BIMを用いた構造解析、気流・照度・温熱環境の解析のほか「施設の利用シナリオに応じた、人の流れのシミュレーション」「想定される風雨に対する、シェルター形状の有効性のシミュレーション」など、密度の高いBIMへの取り組みが評価された。building SMART賞を受賞。

まちの発展をうながす仕掛け
~必要な「モノ」を街でそろえて執り行う「コト」をつくる~

Build Live 2017
Build Live 2017
Build Live 2017

木更津駅から敷地へ通じる目抜き通りは産業の空洞化が進んでいます。
一方で計画地には東京湾を望む親水空間など「場所の魅力」が存在します。
そこで、目抜き通りの商店街と計画地が一体的に活性化するような仕掛け(=コンセプト)を考えました。
コンセプトは「必要な「モノ」を街でそろえて、執り行う「コト」をここ(計画地)に創る」です。
食事や衣装、装飾品などを街で買い揃えて、計画地でオーダーメイド型の結婚式を執り行うことをイメージしました。

テーマ

①木更津の魅力ある景観&親水空間を創出すること
②多機能な施設とし、多目的な来訪者間のコミュニケーションを生むこと
③周辺の緑地や風環境に調和するランドスケープデザインとすること

快適な風環境を探る

風環境の分析による ランドスケープと建物形状の決定

最初に、快適な風環境を実現するため、敷地全体にFlowDesignerによる風解析をかけました。南南西と北北東の2種類の卓越風を環境条件としてシミュレーションを行った結果、防潮堤や橋梁によって一部 風が滞留することや、防潮堤の影響を受けない高度においては風の通り抜けが良好になることが分かりました。そこで、風の滞留を生み親水性を損なっていた防潮堤を撤去し、橋梁付近の風が滞留していた部分の地盤レベルを上げることで、風の滞留を軽減しました。

また風解析を進めていく中で、シリンダー状の建築物が卓越風を背後から受けると、左右に回り込んだ風が正面で打ち消し合うことに気づきました。そこでイベントホールに無風の広場をつくるため、Rhinoceros(モデルリングソフト)とFlow Designer(解析ソフト)の間でデータ連携を行いながら風環境をチェックし、ドームの形状を決めていきました。

Build Live 2017
Build Live 2017
Build Live 2017

構造検討

木空間を形成する構造・設備検討

ランドスケープと一体的になった建築物の形状は曲面のドーム形状としていますが、構造についてはTekla Structureを利用して2種類検討しています。カフェ棟については、落ち着きのある空間を利用者に提供するため木造シェル構造とし、他の建物は鋼管トラス構造とし屋上緑化等の荷重に耐えられるように計画しました。

Build Live 2017

照度解析

「昼光」「人工照明」によって、時間帯や利用雰囲気を配慮したシーン設定

カフェ棟についてはDIALuxによる照度解析を行いました。昼光及び人工照明を合成シュミレーションすることで、時間帯や利用雰囲気を配慮したシーン設定を行いました。

Build Live 2017

空調計画

床チャンバー方式による床吹出空調により、構造架構を見せる

天井の空調ダクトを避け、床吹き出し空調とすることで、構造架構を見せられるようにしました。また、大空間を成層化することで効率良く空調を行います。

Build Live 2017

意匠・構造・設備の統合BIMモデル

Build Live 2017

FLOW DESIGNERによる解析画像

Build Live 2017

解析画像重ね合わせ

Archi CAD からのデータ連携

Build Live 2017

今後の課題

実務に先駆け先進的な技術をテストする機会として、Build Liveは有効なイベントと考えています。建設業界においては働き方改革が叫ばれて久しいですが、ICTを前提としたチームデザインの為のBIMコミュニケーションツールを確立していくことが、我々ゼネコンの今後の課題であると感じています。


● Build Live Japan 2016

 buildingSMART 大賞 

課題敷地   JR東日本木更津駅東口付近
実務運用を背景に、職種間連携や提出IFCデータの質など技術が評価され「Building Smart 大賞」を受賞。

パラメトリックデザインで具現化するオフィスの新しいカタチ

Build Live 2016

テーマの設定

「新しいオフィスの提案」、「ZEBの達成」、「新たな挑戦」の3つのテーマに取組みました。

環境へ配慮した建物を設計すること、労務不足から作業を自動化するといった社会的課題があると思います。仮想コンペであっても実際の業務と同じ姿勢で臨むというのが私たちのアプローチですが、BIMを用いてそれらの課題に取組み、地域に何が貢献できるのかを理解し実現可能な計画を目指しました。

Build Live 2016

現状の問題の抽出と提案

現地調査を行い、木更津駅と木更津港を中心とする「市街地の空桐化」が起きていることを認識しました。これに対して、「賑わいの創出」の為に立体的なまちなみ(都市機能の集積)を提案します。持続的に人が集まる、人が交わるための建築の力を発揮するサテライトオフィスを目指しました。

まずADS-BTを用いて、天空率による斜線型制限の緩和を適用し、日影のシミュレーションを行い、ボリュームを細く高くする方が、周囲への日影の影響が少ないことを確認しました。

Build Live 2016

FlowDesignerによる気流検証

次に敷地モデルを利用してFlowDesignerで敷地周辺の現状の風環境シミュレーションを行いました。計画敷地では春から夏にかけて吹く南南西の風と夏から 秋にかけて吹く北北東の風があることが分かり、その卓越風を建物外壁から取り入れる計画を考えました。地形の風を利用して換気するために、中央に外部空間化した「メガボイド」を考えました。メガボイド内に上昇気流を生み出し、建物上部に排気するといった自然換気システムが成立するよう、FlowDesignerを用いて、再度配棟計画や外罹面の開口部の形状、最上階の屋根やl階をピロティ空間といった建物全体の形状を導き出しています。

次に立体的なまちなみを実現するための構造形式を検討しました。オフィスや多目的室、ショールームといった様々な用途に対応し、フレキシブルな使用と自由な家具配置を可能とするために専有各室を「無柱空間」としようと考えました。中央のメガボイドは鋼管を用いた ダイアゴナルフレームを採用し、建物の剛性と耐力を確保するための柱(軸)とします。最上階部分の屋根は、3mグリッド裔さ4mのトラスによりオーバーハング部分を構成したメガフレームで計画します。各層の床は最上階のトラスからの吊材及びダイアゴナルフレームで支持することで無柱空間化し、さらに1階のピロティには柱を落とさない計画とします。メガボイドの構造架構についてはGrasshopperを用いて意匠と構造の両面から同時検証を行い、複数案から形状を決めました。すり鉢形状 とすることで構造上有利な形状であるとともに、メガボイドからの昼光利用を狙いました。合わせてタスク・アンビエント照明方式を採用し、昼光利用シミュレーションも行いました。

Build Live 2016

GrasshopperとRhinoceros、Tekla Structuresを用いたメガボイドの検証

このように光や風、日射、照明、構造要件といったパラメーターを変化させながら、環境シミュレーションとストラクチャーモデル、設備モデルの検討を並行して行い、最適な形状を導き出す作業を行いました。その際ArchiCADの意匠モデルをIFC変換で書き出し、設備のCADWe'll Tfas、構造のTekla Structuresへの相互連携を迅速に行うという実務に即したオペレーションを行いました。

多様なワークスタイルに合わせた空間づくり

現代の多様なワークスタイルに対して、「集い」の場と充実した「個」の場と様々な外部空間の利用促進を考えました。これにより、コミュニケーションの活性化、賑わいの創出を目指します。中央の外部空間である「メガボイド」、1階のピロティである「ミーティングプレイス」、各階の外部空間の「コミュニティテラス」を計画しました。メガボイドは各諸室に出入りする外部空間として、螺旋の外部階段と外部廊下を備えます。従来コア部分は執務空間から隔離された空間ですが、ガラスの間仕切りを通じ てメガボイドは立体的なコミュニケーションを生み出す装置になり、人が通ることで視線が行き交い、仕事をみせる、賑わいを みせる空間として機能します。

ミーティングプレイスの1階ピロティは地域住民が集まりたくなる場所、体験したくなる空間を目指すと同時に、ハザードマップの津波浸水想定調査を考慮して事業継続性の高いピロティ空間としました。各層で平面上に互い違いに配置されたボリュームを活かし、各諸室の外郭にコミュニティテラスを配置し、この場所から木更津の街へ賑わいが益れることを期待しました。

Build Live 2016
Build Live 2016

断面パース(ArchiCAD、Tekla Structures、CADWe'll Tfasの統合モデル)

ZEB実現への取り組

自然エネルギーによる創エネルギーとして、屋上階のメガフレーム上に太陽追尾型太陽光パネルを設置します。創エネと省エネにより同規模標準建物に比べてエネルギー消費量を約80%低減することを可能とし、NearlyZEBを達成しました。CO2排出量削減についても同規模標準建物に比べ約58%低減します。

最後に

短い設計期間ではありましたが、Grasshopperで作成した平面プランで群衆シミュレーションを行ったり、Kangarooを使って構造架構モデルに重力を与えてシミュレーションを行う等の新しい試みも行いました。短時間での可能性検討を行える技術を磨くことは社会への還元であると信じ、今後もソリューションの拡張とBIM技術の向上を行っていきます

Build Live 2015

コミュニティテラス

Build Live 2015

屋上テラス(夕景)

Build Live 2015

Grasshopperで作成したプランで「群衆シミュレーション」を行った


● Build Live Japan 2015

 杵築大賞 
 Best BIM Practice賞 

課題敷地   大分県杵築市城下町地区
地元の方々に最も感銘を与えた完成度の高いプロポーザルが評価され、今回課題敷地となった地元から地域賞として「杵築大賞」、主催者であるIAI日本からはデータ連係などの技術的な観点から「Best BIM Practice賞」をダブルで受賞。

BIMを用いたバラメトリックデザインによる歴史的景観の再生

Build Live 2015
Build Live 2015
Build Live 2015
Build Live 2015
Build Live 2015
Build Live 2015

チーム「スカンクワークス」は2009年最初のBuild Liveから今回で8回目の参加となります。前田建設の建築設計スタッフを中心に、ユニマットリック、グラフィソフトジャパン、アドバンスドナレッジ、ダイテック、レボリューション・ゼロ、イズミシステム設計、久慈設計、東洋建設、エイコネックス・ジャパン、芝浦工業大学(インターン)の計54名からなるチームです。

杵築市の城下町地区の景観の再生というテーマに対して、地区計画に定めるような固定的な形態制限をかけるのではなく、変化の幅をもった「やわらかい」デザインコードを提案したいと考えました。そこにBIMならではの「パラメトリック」な手法を用いて、景観に配慮しながらも様々な可能性を生みだすことを目指しました。特に例年と異なるポイントは下記の3点です。

・ 敷地が小規模で、複数ある(12か所からの選択)
・ 守るべき景観がある
・ 審査は地元住民参加で、指定されたVR(ヴァーチャルリアリティ)を使用

過去7回、私たちのアプローチは仮想コンペであっても実際の業務と同じ姿勢で臨むということです。今回も地元の方が期待しているものを理解し、実現可能な計画を行うことで誠実に応えていきたいと考えました。

今回初めて開催された合同現地調査会に参加し、屋根の連なりや地形の作り出す風景に魅力を感じましたが、一方で拡幅された沿道に空地が多いことも実感しました。

そこから我々は現状の問題を2つ抽出しました。

① 景景観保存のための「かたい」建築形態の制限により空地の活用が不十分であること。
② 拡幅された通りの広い道路幅に対して全長が短く、賑わいが生まれにくいこと。

これらに対して我々の提案が目指すところを以下に定めました。

①に対して既存の杵築デザインのDNAをもちながらも、それらを一部書き換えることで新たなガイドラインを作ること
②に対して賑わいを取り戻す工夫として「通り庭ボイド」と定義した空地をつくること

BIM的な解決方法としてGrasshopperを使ってパラメトリックな検討を行います。

Build Live 2015

12の敷地それぞれに対して、立面開口、屋根、通り庭ボイドという3つの要素のパラメーターを操作することで同時多発的に数万個の検討バリエーションを自動生成させました。

既存の形態制限を基に、新たなデザインコードを作るにあたり、もう一つの提案は視認性シミュレーションによる重みづけ値の設定です。どの場所も一律に規制するのではなく、立地による視認性の変化に対応する規制とするためです。壁面だけではなく、坂の上など場所によっては屋根についても重みづけ値が変化することを考慮しました。下図の赤い部分が視認性が高いと想定した部分です。

Build Live 2015

また、Grasshopperで導き出されたバリエーションだけでなく、設計担当者による人間の自由な発想も取り込もうと考えました。

最初に設定した少ないパラメーターでは人間の発想を超えるものは生み出せなかったので、設計担当者が屋根の分割数などを新たにパラメーターとして追加する工程を加えました。

結果として当初より多様な変数を持つ、「やわらかい」形態制限になりました。

また、景観を形成する重要な要素である材料の設定ではArchiCADの「材質」をテンプレートとすることで街並みとの調和を図ります。

各12敷地の提案をする上で敷地ごとに前田建設、ユニマットリック、久慈設計、東洋建設、芝浦工業大学インターン生で分担して設計を行いました。

久慈設計、東洋建設はそれぞれ宿泊機能を有する施設の計画を、芝浦工業大学インターン生は可変店舗を担当し、ユニマットリックは2敷地でランドスケープの計画を行い、残りを前田建設で担当することで、12敷地すべての提案を行いました。

また賑わいを創出する提案として、1つの棟に複数のテーマを混在させることを考えました。特に杵築の城下町地区は宿泊施設が不足していると考え宿泊機能を3か所に分散して、地元住民と来訪者との交流が発生する仕組みをつくりました。

展示施設の計画では構造設計で特徴的な張弦梁の架構検討を行っています。

設備設計では太陽熱利用システムを用いた空調シミュレーションの解析でFlowDesignerを用いています。

Build Live 2015

またCADwe’ll Tfasでダクトのモデリングを行い、追加機能を用いて、設備のリストをCSVで書き出してFMへの展開を図っています。

さらに、12の敷地でエネルギーの融通ができるスマートシティの提案も行いました。

イズミシステム設計では各室のゾーンのIFCモデルを利用して空調熱負荷計算を行っています。

パース作成ではレボリューション・ゼロが賑わいオブジェクトを作成し再生した街並みに華を添えています。

総工事費についても求められていましたがBIM以外の要素が多く、今回算出を見送りましたが、入力したモデルの実数から構造の躯体費を算出しました。

Build Live 2015
Build Live 2015

Build Live中は実務と同様にデザインレビューを行い、メンバー以外の職員にも批評してもらいました。デザインレビューでは、インターネットブラウザ上で検討中のモデルを閲覧するために、異なるBIMソフトを受け入れるコラボレーションツールとしてaconexを利用しました。

IFCデータを介してこれらのツールを活用することで異なる企業間での協働作業もスムーズに行うことが可能です。

今回で参加8回目となりましたが毎年新たなメンバーで新たな設計プロセスを模索したり、UC-win/Road やLumionなど新たなツールの導入を試みています。

こうした技術の棚卸を行うといった意味でもBuild Liveは非常に有効なイベントであると思います。

今後も実務に即したシミュレーションやBIMソフトのオペレーションをBuild Liveにおいて試行することで実際の業務へフィードバックできるようにBIM技術の向上を目指します。

BIMがわかりやすいということは既知のことではありますが、 今回のBuild Liveは各種VRなど情報共有ツールとしてフル活用できた稀有な事例だと考えます。

様々な課題に対して、BIMが問題解決のための可能性を示した意味ではイベントとして成功したのではないでしょうか。

最後にBuild Live全体を通して感じられたのは地元杵築の方々の熱い思いです。市長をはじめ、杵築市の職員の方や地元のメンバーで構成するまちづくり協議会の方々が課題の作成から審査やパブリックビューイングの準備等にご尽力いただきました。

Build Live 2015


● Build Live Japan 2014

 最優秀賞 
 Building Smart大賞 

課題敷地   沖縄県石垣市
「圧巻のBIM展開」という評価により「最優秀賞」と「Best BIM Practice賞」をダブルで受賞。

BIMが創り出す未来のモビリティと建築の融合

Build Live 2014
Build Live 2014
Build Live 2014
Build Live 2014

チーム「スカンクワークス」は2009年最初のBuild Liveから今回で7回目の参加となります。前田建設の建築設計スタッフを中心に、グラフィソフトジャパン、アドバンスドナレッジ研究所、ダイテック、レボリューション・ゼロ、イズミシステム設計、久慈設計、3D工房、マクソンコンピュータの計9社、総勢49名からなるチームです。

昨年までは若手中心の体制でしたが今年は原点に立ち返り中堅層がコアメンバーとなって取り組みました。

昨年より48時間から100時間となり、「100時間の使い方」の難しさを感じておりましたが、新たに使うことのできる52時間を何の作業に振り分けるのかについてディスカッションを重ね、計画の骨子の決定までの検討時間に重きを置いたスケジューリングを行いました。

今回、ひとつの仕掛けとして複数のパラメーターの設定により建物のファサードを創り出せないか、ということを考えました。

また今回新しい取り組みとして、Build Liveの前に課題自体を考えさせるプロポーザルがありました。前田建設では毎年新入社員にBIM講習を課しておりますが、今年はその中にプロポーザルへの参加を組み込み、BIMによる建築が地域に貢献できる事を、BIMに初めて触れる者の視点から提案しました。

本題の課題では石垣島の観光の充実とモビリティの改善が求められました。

私たちは、石垣島についてのリサーチを行い、観光業をさらに成長させていくにあたって石垣島が抱える課題の抽出と、石垣島島内のモビリティについての見直しを行いました。そこから、今回の計画の軸となる提案の方針を3つ設定しました。

第一に、「交流を生み出すこと。」

第二に、「原風景を未来へ繋ぐこと。」

最後に、「環境を創造すること。」

以上の方針を元に設計を行いました。

モビリティの見直しにより、島内の交通環境が自動車中心から海上巡回バスと超小型モビリティへとシフトされることを前提とし、今回の計画地を海上巡回バスのメインステーションと位置づけました。島内各地にはサブステーションを設け、海上巡回バスに超小型モビリティを持ち込んでサブステーション間を移動し、サブステーションを起点にその周辺を超小型モビリティで移動することで島内の自動車交通の削減と新しい観光スタイルの確立を図る計画です。

サブステーションは沖縄の風土に即したデザインとしました。CGのレンダリングには従来の3dsMaxではなく、3D工房、マクソンコンピュータに協力を依頼しArchiCAD18のCINEMA 4Dレンダリングエンジンにて行いました。クオリティの高い画像にはArchiCADの新たな可能性を感じました。

メインステーションとなる当施設を「グリーンスパイラルステーション」と名付け、海上巡回バスから超小型モビリティに乗り換える道の駅として利用するだけでなく、超小型モビリティで建物内を回遊することができる、これまでにない新しい建築を考えました。

建物内に超小型モビリティを乗入れることにより、各施設の直近まで近づくことによる利便性の向上や、動線を伸ばすことにより目的地に到着するまでに出会う様々な景色や空間の体験などが得られます。そして何よりも地元住民と観光客の動線交差などが新たな出会いと発見を生み出すと考えました。

計画のプロセスとしては、まず初めに交流を生み出すしかけとして、施設を分散配置した上で、施設同士をつなぐ超小型モビリティ用の「モビリティウェイ」を計画しました。

地元住民、観光客など、利用者のアクティビティの流れから用途のつらなりを想定し、それらを直線的に結ぶのではなく、囲うように動線をつなげていきます。道路で分断された2つの敷地もモビリティウェイで繋ぐことにより、計画地全体が1つの施設となりました。

モビリティウェイの検討に関しては高速道路のジャンクションの計画方針等を参考としました。計画には多くの時間を費やしましたが、ルートシミュレーションの手段としてコンピューテーショナルな解決方法を見出せると良かったと思います。

ファサードは、沖縄に植生する防風林となるフクギの生垣をモチーフとしました。フクギをモチーフとしたマリオンをファサードデザインに取り込むことにより、周辺の環境や建物の用途に合わせた境界を形成することを考えました。

Build Live 2014
Build Live 2014
Build Live 2014
Build Live 2014

モビリティウェイと建物の境界にマリオンを施すことにより、内部と外部がゆるやかにつながった空間を生み出します。

強い日射と高温への配慮が求められる石垣島の気候に対しても、マリオンの存在により日射を遮り日陰を作りつつ風通しを確保することができます。

マリオンのピッチについて日射と風の双方のシミュレーションを行い、屋内へ適度な自然光が入り、風が抜けていく快適な環境を導き出しました。

また、それと同時にモビリティウェイの両脇に立つマリオンをストラクチャーとして利用します。構造計画を行い、構造上必要な柱の本数を算出し、余剰分のマリオンを今度は設備のシャフトとして活用します。建物外周に設備シャフトを設けることにより、建物の内部空間の自由度を高めます。

このように光や風、日射や熱、構造要件といったパラメーターを変化させながら、環境シミュレーションとストラクチャーモデル、設備モデルの検討を並行して行い、最適なレイアウトを導き出す作業を行いました。ArchiCADのベースとなるモデルをIFC変換で書き出し、FlowDesignerの活用やCADwe’ll Tfasへの読み込み、Teklaの読み込み等の相互連携を迅速に行うという実務に即したオペレーションを行いました。

Build Live 2014

エネルギー計画は、省エネ、創エネ、ピークシフトの3段階で計画を行いました。第一段階の省エネでは、先程のマリオンのピッチの調整により適度な自然光や通風を確保することで照明負荷・空調負荷を低減し、第二段階の創エネでは、沖縄特有の強い日射を活かし太陽光発電と太陽光給湯を行います。また、さとうきび等を利用したバイオマスエネルギーの利用にも取り組みました。そして最終段階としてピークシフトを行います。蓄電池を計画することにより、太陽光発電の電力を電力負荷の多い時間帯に補てんすることでピークを押し下げる計画としました。

以上のエネルギー計画により、当初の想定消費エネルギーに対し約70%もの低減ができる計画となりました。

設備設計ではCADwe’ll Tfasの追加機能を用いて、設備のリストをCSVで書き出しFMへの展開を図りました。またイズミシステム設計ではIFCから空熱調負荷計算を行っております。

ランドスケープ計画は、元の植生を活かすために既存樹木を残す方針としました。

計画建物について再度日照と風のシミュレーションを並行して行い、敷地内の気候条件をエリアごとに導き出すことにより、それぞれの植栽をその育成に適した場所に配置することが可能になります。今回は耐風性や耐陰性に配慮し、沖縄の生態系に調和した植栽を計画しました。

生物多様性について、前田建設で開発したHEALINという指標から換算すると、計画前よりも約4倍程度の生物多様性が図れることが検証されました。

沖縄の星空を眺めるというコンセプトの元、久慈設計のメンバーがオリジナルランタンをデザインし、施設内をランタンを用いて回遊し、星空を眺めるシーンを計画しました。昼間のアクティブな施設の雰囲気を一変させるもう一つの施設の顔が現れました。

100時間という長丁場になり、コンセプトやシミュレーションの検討をより深めることができるようになりました。今後さらに多くのパラメーターを扱いながら設計検討が行えるよう、ソリューションの拡張とBIM技術の向上を行っていきます。

Build Live 2014
Build Live 2014


● Build Live Japan 2013

 優秀賞 
 BIMフロンティア賞 
 Building Smart大賞 

課題敷地   川崎市「宮崎台ビレッジ」
「練達したBIMの取り組みを示し技術的評価で圧倒的であった」という評価で「Building Smart大賞」をはじめ各賞を受賞

100時間で変貌する環境視覚化と生物多様性

Build Live 2013

チーム「スカンクワークス」は2009年最初のBuild Liveから数えて今回で6度目の参加となります。前田建設工業、グラフィソフトジャパン、ユニマットリバティー リックカンパニー、アドバンスドナレッジ研究所、ダイテック、レボリューション・ゼロ、デジタルビジョン、イズミシステム設計の昨年の構成企業に加えて今回新たに久慈設計を迎えての挑戦となります。初回の参加から5年近く経過しましたがその間前田建設では毎年新人にBIM講習を課し、このイベントのメンバーも徐々に世代交代が進んでいます。今回課題が第2回開催時と同じ敷地となりましたが当時の主力はBuild Liveを卒業しているため、メンバーにはモチベーション低下の心配は無かった様です。戸惑ったのは従来の48時間制限という縛りが今回100時間まで拡大されたことでした。実務者としてはイベントに参加する上で常に費用対効果を考えなければなりませんが、昨年までと同様のやり方の延長では単純に工数が倍に膨らんでしまいます。「100時間の使い方」が今回我々の大きな課題となりましたが、これについては様々な選択肢が本来あり得ます。それについては後述しますが、今回我々が選んだのは設計のより上流の段階における環境シミュレーションに時間を割くことです。

Build Live 2013

BIMがプロジェクトに寄与できることの一つに環境性能の視覚化が挙げられますが、シミュレーションの計算には相応の時間が必要です。Build Liveでも解析結果のフィードバックを期待されていましたが48時間という極限状況ではなかなか難しく、96時間を使える学生クラスとの大きな違いでした。最終成果品をまとめる技術は従来の48時間の取組で十分磨かれましたので、今回のレギュレーション改定で生まれた余剰の時間はシミュレーションとそのフィードバックを繰り返し行うことに決めました。まず我々は2009年当時の成果を検討することから始めました。2009年の「CLOVER VILLEGE」を改めて見返すと、48時間の中で事業企画的な試みから施工的な検討までをこなし最終的にそれらを販売パンフレットの体裁で纏めるという大変意欲的なものでした。

ただし環境シミュレーションはいわゆるビル風程度の検討に留まっており、当時の計画を今のソリューションで確認したらどうなるのだろうか?という興味もありました。実際に久慈設計にて検証を行ってみると、日照の面で中庭が閉鎖的であること、また前田建設でFlowDesignerを使用してみると、各住戸内部の通風が十分でないことが目につき、これらを新しい技術で解決していくことを目論みました。初回よりチームの精神として「仮想プロジェクトであっても実務に臨む姿勢で同等の成果品を出す」という思いがあります。もちろんゼロスタートで全く別のアプローチで進める道もありますが、敢えて前回の考え方を継続し一貫することに実務と等しい誠実さがあるのではないか、というのが今回の主軸になっています。2009年時の形態が“metamorphose”していく様を2013年に見せることがキーワードになりました。

また、当時なかった新しい要素の一つが「生物多様性への取組み」です。HEALINという前田建設が開発したプログラムにより、ハビタット評点という形でこれを指標化できます。2009年当時の計画も決して悪い評価ではありませんし、共同住宅という用途を考えた場合に「生物多様性」という言葉の意味を熟慮する必要もあります。今回「鳥や蝶を呼ぶ生物多様性の高い住宅をつくる」というコンセプトになり、先の“metamorphose”と繋がったのは偶然ですが、緑地の量より質にこだわり鳥や蝶が好む樹種を選択する作業をランドスケープを担当したRIKと前田建設とで共同して進めました。また、今回の計画名称も蝶をイメージし「スワロウテイル ビレッジ」と名付けました。

Build Live 2013

2009年当時もそうでしたが、この敷地は法的な縛りが強く計画に影響を与えます。これらを踏まえた上で日照条件や通風を確保するための手法として「ジェンガ」をモチーフにしました。容積を固定にした上で空隙を新たに設けながら改善案を導き、結果をシミュレーションで検証する・・・この作業にかなりの時間を割いています。元の階段室型の住戸は自然通風が期待できない状態であるため、階段室そのものを屋外的に取扱い積極的に換気に利用するために床を開放性のある材料に改めました。同時に卓越風によりこの換気をより効果的に促すためのルーフ形状を考えました。出来上がった形態だけを見ると既視感を感じる部分もあるかもしれませんが、リアルタイムで作業を行いながらの気付きや改善していくプロセスにこそ意味があったと感じます。

Build Live 2013

階段室型の構成についても施設全体のコミュニティを醸成する上で一体感に欠けていないか?と問題を提示したメンバーもいました。そこで、それぞれの共用部を繋いで一体にする「屋根」を考え、中庭の日照条件をカラーコンタで表して条件の悪い部分にこの半外部の共用エリアを作ろうと試みました。技術的にRhinoceros+Grasshopperでモデリングまでは出来たものの、建築的な落とし込みまでが時間的にできなかったのが残念です。構造的なフレームと利用方法を考えている途中で終わってしまいました。

各住戸のプランについては久慈設計、デジタルビジョン、前田建設の3社にて手分けをして行いました。若者向けのシェアハウスプランからファミリー向けのプランまで「ライフサイクルが循環する」施設となるように計画を行いました。その際により自然通風が発生する様に外壁の向きやバルコニーの形状を変化させています。これらの住戸プランの意匠データをIFC変換し設備のCADwe'll Tfas上に読み込み、設備計画とモデリングを行いました。イズミシステム設計ではIFCから空調熱負荷計算を行っており、設備データは意匠のArchiCADへIFCで戻し、それぞれが統合モデルを保有しています。

Build Live 2013

これは以前では出来なかったことですが、IFCのインターフェースを実装するCADが増えたことで各々の場所で統合BIMが実現できるようになってきました。フルBIMが複数のCAD上で実現できることは、従来のように一か所で意匠・構造・設備のBIMを構築するスタイルから変化し、OPEN BIMの気運の高まりとともに近年はファブリケーターやサブコントラクター側でもBIMが浸透してきていますから、今後の展開を考えると大変意味のあることだと思います。その場合には統合された姿がリアルタイムで共有できる仕組みも必要だと考えていましたが、今回事務局側はそこにも手を打っており、新たな試みとしてAconex社のBIMクラウドを利用する方法が提示されていました。これを利用すると、異なるサイトからアップロードされたデータ統合のイメージがシェアできるだけでなくそれぞれをダウンロードでき、使い方によっては新旧データの比較もできそうです。重いデータを利用するにはまだ改善の余地がありますが、未来のBIMのあり方を予感させる技術です。これらに直に触れることができるのもBuild Liveの価値であり、我々が参加し続けている理由の一つだと言えます。

先に触れた100時間の使い方の可能性ですが、今回のように設計の上流だけでなく、我々が以前のBuild Liveで試した「施工のためのBIM」あるいは「維持管理のためのBIM」を掘り下げるような複数のシナリオが幾通りも描けると思います。プラットホームとしてBIMが行き渡りつつある今こそ「100時間のBuild Live」の可能性を改めて考えてみてはいかがでしょうか。


● Build Live Japan 2012

 優秀賞 
 Building Smart大賞 

課題敷地   千葉「かずさアクアシティ」
「Build Liveフル出場の貫禄ともいえるBIMの成果」という評価で「Building Smart大賞」と「優秀賞」を受賞

ZEB+の試行とデジタルファブリケーション

Build Live 2012
Build Live 2012
Build Live 2012
Build Live 2012

チーム「スカンクワークス」は前田建設工業の設計スタッフを中心に、リック、グラフィソフトジャパン、アドバンスドナレッジ研究所、ダイテック、レボリューションゼロ、デジタルビジョン、イズミシステム設計の8社のからなるチームです。2009年の最初のBuild Live Tokyo 2009に参加してから連続5回目の出場となります。前回より若手職員主体での取組としていますが、過去の大会で学生部門の参加者が新卒で入社し活躍するなどBuild Liveを中心としBIMのシーンも大きく変わっています。

Build Live 2012

過去4回の参加通して我々のチームの強みは明らかになりました。「意匠・構造・設備が一体となった詳細な統合BIMデータの構築」、「CGアニメーションを始めとするプレゼンテーション技術」、「設計者が自らBIMを操作すること」。以上3つを活かしつつ、今回新たにチャレンジする項目を5つ掲げました。
① 環境への貢献[ZEB+の実現]
② 設計者の発想を妨げない自由な造形
   [Rhino+Grasshopperとモルフツール]
③ 作業効率の改善
   [複雑な形状の部材自動配置]
④ 統合データの高品質化
   [SOLIBRIの導入]
⑤ BIMデータの適用範囲の拡大
   [IFCによる空調熱負荷計算]。

①のZEB+(ゼブプラス)とは前田建設が独自に開発推進する技術でネットゼロエネルギービルを実現するコンセプトで、BIMによる環境適合設計もその一つの技術と目されています。②と③については前回のBLK2011終了時に思案していたことですがデジタルデザインとデジタルファブリケーションとの両輪を回すことは架空のプロジェクトだけでなく実務に展開する上で重要なことだと考えています。④は今回がSOLIBRIが日本語化されて初めてのBuild Liveということで注目のアイテムです。⑤は昨年うまくいかなかった要素を改善しての再挑戦となります。このように新しいことを試す機会としてBuild Liveは最適な舞台であると思います。

Build Live 2012

学生クラスの96時間と我々実務クラスの48時間で最も異なる点はCFD等の解析にかけられる時間です。今回初日は形状を決めるための解析とモデリングを繰り返すことに決めました。ソーラーチムニーを模した形状が水盤上の空気をどのように誘引し最上部で抜けていくかをRhinoで様々な形状をつくりFlowDesignerに変換し、シミュレーションを繰り返し行いました。結論として敷地北側に高層のチムニーを建てることとし、2日目より練馬の前田建設オフィスと青山のリックオフィスをTeamWorkを使ったBIMサーバーで結び意匠とランドスケープを同時に設計しました。その際に外装はGrasshopperを用い複雑な曲面で構成していましたが座標情報からTeklaによりサッシュの枠を自動配置する等の試みを行い、これらを最終的にArchiCADに取り込むことでBIMオーサリングを行う環境を構築しました。その際に新しいモルフツールが有効に働きました。

ゾーンを構築しIFC_spaceで出力しイズミシステム設計と開発したIFCコンバーターを介して空調熱負荷計算を行い、今回は計算書の出力まで辿り着けました。また設備についてはCADWe’ll TfasがよりIFCとの親和性を高め3D機能を充実したことで建築の情報を取り込みそれを見ながらの設備モデリングを容易にしています。そして意匠・構造・設備のデータが揃った段階でそれぞれのデータをSOLIBRIの内部で重ねあわせてモデルチェックを実施しました。チェックしたい項目をあらかじめセットしておけば様々な活用法が今後期待できます。これらの一連の作業環境は初回のBuild Live Tokyo 2009から格段に進化した感があります。当時の成果品と今回の成果品だけを比較すると外観で直線が曲面になった程度の差しか判らないかもしれませんが実際に参加し作業を行っている立場として、この4年間の変化は大きいものに感じられます。

Build Live 2012

建物の外装全体を太陽光パネルとし、その表面積をBIMにより算出し発電予測をたてました。イニシャルコストを約3年で回収でき、その他の環境技術を併用することで建物の消費エネルギーを同規模標準建物と比較し100%低減できると見込んでいます。環境解析・予測技術はBIMが社会に直接的に貢献できる分野でもあり今後もより注力していくべきと思います。

Build Live 2012

今回気になった点の一つが実務クラスの参加チームが減ったことです。BIM自体はここ数年建設業界にさらに浸透していますが社会の要請に合わせ多角化しています。より分かりやすく社会に貢献することがイメージできるテーマが今後必要ではないでしょうか。


● Build Live Kobe 2011

 優秀賞 
 Building Smart大賞 

課題敷地   神戸「国際交流センター」
「会社としてBIMへの取り組みが定着し、安定したBIMプロセスを回せる力量が垣間見えた」という評価で「Building Smart大賞」と「優秀賞」を受賞

BIMはデザインとエンジニアリングの融合

Build Live 2011

チーム紹介

チーム「スカンクワークス」は前田建設の建築設計スタッフを中心に、リック、グラフィソフトジャパン、テクラ、アドバンスドナレッジ研究所、ダイテック、バーリントンアーキ、レボリューションゼロ、デジタルビジョンの9社からなるチームです。前田建設では設計から施工までの一気通貫運用を狙い2001年より3次元設計を開始、当初より意匠設計のみならず構造・設備に関しても3次元データ化を図り現在のBIMの先駆けとなりました。2009年の最初のBuild Live Tokyo 2009参加から今回で連続4回目の出場となります。若手職員でも2回目、3回目と経験を積んでおり、場所を神戸に移した2011年は心機一転、若手主体の体制で臨むことになりました。

原点回帰

2009年最初の参加では通常業務で培った我々のBIMが48時間で実現できるかの確認がテーマでした。過去のBIM Stormと呼ばれる海外イベントでの事例は知っていましたがそれに囚われず業務と同じ心構えで臨みました。その直後の2回目は住宅が課題であったので、よりエンドユーザーに判りやすいBIM、仮想入居者を交えてのBIM3.0を目指しました。3回目はBIMサーバーを活用して企業の垣根を越えての広範囲なコラボレーションを模索しました。正直なところ毎回当初の目標は完遂できていないのですが、失敗した部分がその後の糧となっているのは間違いなく、問題の洗い出し効果や腕試しという側面もこのイベントにはあります。

計3回の参加で48時間の使い方については理解している反面、その限界についても身に染みています。「48時間で収束すること」は参加者には大きなプレッシャーであり、デザインの自由さに自ずと上限を無意識に設けていくことになります。本来設計者がBIMを活用したくなる動機の一つに「自分の思い描くカタチを自由に造形したい」という想いがあります。今回若手中心の新生スカンクワークスはその基本に立ち返りデザインでチャレンジをすることを目指しました。工程表を一度は引いたものの、どこで破綻するか判らない状況でのスタートは最初の参加と同じ心境といえました。

コウノトリノツバサ

計4回のBuild Liveへの参加を通じてこのイベントへの理解もあるつもりですが客観的に見たときの懸念のひとつは、48時間という時間の制約から結果として計画した建築が薄っぺらなものに見えるのではないか、或いはそのプロセスを否定する方もいるのではないかということです。仮想コンペとはいえ今回敢えて神戸という場所を与えられ実在の敷地を課題としているのであり、「デザイン都市神戸」を考慮した解を求められていました。チームとしては敷地が公開された段階でメンバーとディスカッションを行い、兵庫県が増殖・飼育に取り組んでいる県の鳥であることから「コウノトリと共生できる環境」を目指しながら未来を目指す先端性の象徴になるべく“翼”の形態をモチーフに使い、同時にエネルギー活用の提案まで導くことがわれわれのコンセプトとなりました。

Build Live 2011

BIMがデザインへ与える影響

BIMを取り組むことの最大の効果は計画案の思想が明確化し、多数のメンバーが方向性を共通理解しコンカレントな作業が可能となることだと考えます。全体のフォルムに機能を持つとするならばどういう形状であるべきかを議論し、廃熱のみでは不足する熱をソーラーコレクターで集熱し必要なエリアへ供給するリニアなプランを採用、エネルギー活用の課題を建築形態と一体で解くことを最初に決めました。デザインとエンジニアリングが融合するゼネコン設計部らしい案を目指しています。詳しくは後述しますがBIM活用によってこの組み立てを意匠・構造・設備が共同で行いコンセプトの共有だけでなく形態的にも齟齬なく認識しながら作業を行いました。湾曲したプランと曲面の屋根といった敢えて意識的に複雑なモチーフを今回採用しましたが構造と設備はIFCデータ連携により追従しています。これもまたBIMの成せる特徴のひとつでしょう。

BIMサーバーによるコラボレーション

一つのプロジェクトに複数のメンバーがアクセスし同時に編集できるTeamWork機能は実務でも使用している画期的なソリューションです。今回もランドスケープはリックがデザインとモデル入力を担当していますが、ArchiCADのアドオンであるLANDSCAPE PACKを用いることで自社からダイレクトにBIMサーバーにアクセスしTeamWorkに参加することが叶いました。コンセプトのすり合わせを行った後には建物と同時進行で外構の形状を入力することになります。またバーリントンアーキも前回と同様ニュージーランドから直接BIMサーバーへアクセスしレストラン部分の入力を行いました。お互いの作業を見合いながらのコンカレントな設計作業はBIM以前では見られなかった光景でしょう。

また今回は独自のコンバーター運用を控えてデータ交換にIFC連携を積極的に活用する試みを行っています。構造と設備はダイレクトにBIMサーバーへアクセスはしないもののArchiCADに一度読み込むことで統合データを実現しました。今後のデータ連携への布石となる実験です。また各解析等のソリューションへの展開もIFCに準拠することを試みましたが、PAL計算・熱負荷計算への連携は形状が複雑だったのが災いしたのか変換が叶いませんでした。これも今後の課題と言えるでしょう。

Build Live 2011

廃熱利用

設問であるデータセンターからの低温廃熱をどう再利用するかが大きな課題でした。大型コンピューターからの廃熱は35℃~45℃になると想定されます。このままでは温度が低すぎ回収しての使用も困難です。そこで廃熱の上昇気流を考慮し斜め上がりの形状とし廃熱の搬送動力を削減すると同時にその道中で太陽熱を浴び60℃~80℃まで昇温することを期待しました。これらはまず屋内プールへの1次熱交換を行い、その後プールへの暖房へと利用します。一連の廃熱の流れをリニアな建物形態と一致させ機能とデザインが融合することを図りました。この廃熱利用により年間エネルギー削減量を1㎡あたり約1,000MJ、CO2削減量を年間約180tと試算しました。

Build Live 2011

今後のBuild Live

これからの取組を見据えたとき、直近で大きく二つの傾向が見られます。

ひとつはアルゴリズミック・パラメトリックなコンピューテーショナルデザインです。デザインへのコンピューターの介在がより大きくなり従来の恣意的な建築デザインからの離脱が期待されますが、我々が着目するのはファブリケーションにおける自動化です。ゼネコン設計部には不要と切り捨てるのは早計であり、そこには更なる業務効率化の糸口があるかもしれません。

もうひとつはBIMのI(Information)にフォーカスすること。単に形状を3次元で表現することに留まらず、後工程へ伝達すべき属性情報をどう組み込んでいかに活用すべきか。今年の課題ではIFCスペースから部屋の面積表を導こうとする試みが見られました。物理的に存在するオブジェクトのみならず、「空間」に対して属性を与えて活用することがBIMの特徴といえるかもしれません。

毎回Build Liveに参加して感じるのは「伝える力」の強さです。情報伝達する量や質においてBIMが従来の図面情報より勝っているのは周知のことですが、参加する側の想いや狙いまで含めてインターネットを通じて膨大な数の観戦者へ伝えることが出来ます。我々としては着想の秀逸さを競うのではなく、最終的なプレゼンテーションに至るまでの一連の営みで建築を専門としない一般の方々をも含めた社会へと48時間で何を伝えられるかが重要だと思います。一年後は我々も更に進化します。既成のBIMの枠に囚われない新しい参加者が次々現れることを期待しています。

Build Live 2011


● Build Live Tokyo 2010

 優秀賞 
 BIMテクノロジー賞 

課題敷地   「国立メディア芸術総合センター」
「今回も多くのBIMソフトを連携した取り組みを見せ、デザインの随所にその成果が表れています」という評価で「BIMテクノロジー賞」と「優秀賞」を受賞

BIMが切り拓く未来の建設業界への試行

Build Live 2010
Build Live 2010
Build Live 2010
Build Live 2010

「ライブセッション」に込めた思い

通常業務と同じクオリティの成果品を48時間で実現するだけでなく、BLTでは実験的な試みをパートナー企業と実践できるのが継続参加する理由です。前田建設工業、グラフィソフトジャパン、テクラ、リック、アドバンスナレッジ研究所、マイスターの前回メンバーに加え新たに丸紅情報システムズ、ダイテック、セコム、パスコ、バーリントン・アーキ、レボリューション・ゼロという企業群で48時間を闘いました。今回私たちは企業の垣根を越えた建設ICTイノベーションを目指し「ライブセッション」というコンセプトを掲げました。音楽の即興演奏の様に様々な能力・センスを持った人間が集まり、互いの作業に共鳴しながら自律的に行動し、見学者を含めて48時間を共有する、というものです。(さらに期間中飛び入り参加を募集しましたが、そちらの方は応募なしでした・・・。)今回の「ライブセッション」を実現したのがArchiCADに実装されたTeamWork2.0です。BIMサーバーにインターネット上どこからでもアクセス可能とし、同時に複数の人間がデータ編集を行える優れた機能です。これによりニュージーランドからバーリントン・アーキは参加可能になりました。

Squali Media Art Archive

課題は「メディア芸術センター」。展示の他に研究・物販・飲食・会議と複合した施設になります。今回あえてこれらを束ねず分棟して各デザイナーに任せ、大きなアーケードでこれらを囲うことで纏まり感のあるカタチを目指しました。さて、このアーケードですが敷地に沿って曲げるとなにやら魚の様に見えます。大きな魚に街が呑み込まれたファンタジー的な「ピノキオ」をモチーフにしました。もともとピノキオを呑み込んだのはクジラではなくてサメだった話はご存じですか?また今回審査にウォークスルーを使うことが事前にアナウンスされていましたが、展示エリアをただ歩かせるだけでは味気ないので仮想の企画展示を考えました。DLEさんのご厚意で“メディアアート”という言葉にもっとも相応しいFLOGMANさんの「古墳ギャルのコフィー」を展示に使用させて頂いてます。紙面を借りて改めて御礼申し上げます。(実は前田建設と「コフィー」とはこれが初対面ではないのです。www.maeda.co.jp/fantasy/active/index.html)

Build Live!

審査側からは事前に「BIMだからこうなった」という因果関係を求められました。設計フロー初期にセコムで実施した動線・セキュリティの解析を折り込みそれを反芻することでより良い配置計画・平面計画になるというロジックで挑みました。終了6時間前までプランがFIXしない事態となり、セコムのみなさんに無理を強いてしまいました。またパスコが提供するGISデータを元に周辺近隣を含めた交通流量と防犯性をシミュレーションし敷地の第2入口を設置しました。構造・設備設計はプランのバリエーションが多い上に意匠設計FIXが遅く苦労しました、最終成果品でもいくつか不整合を残してしまいました。CGについては最後の6時間しか使えない極限状況で例年以上のCGアニメーションを残せました。CG内製化にこだわってきた強みだと思います。

計画初期よりアーケード内部でいかに心地よい風環境を実現出来るか検討しました。冬は風を遮り夏は風を導く様な形状を技研とCFD解析上で確認しました。また室内の気流解析はArchiCADのIFCデータを簡易にFlowDesigner側で読み込み実施していますが、これは第1回目のBLTから徐々に培われた技術です。設計者自身の手の内で解析が行えることがBIMの魅力の一つです。外構計画はリックがデザインとモデリングを担当し、「源氏香図」と「里山と棚田」というコンセプトを展開しました。RIKCADデータはネイティブでArchiCADへ統合されます。

施工検討も大きなアーケードの下に各建物がギリギリのクリアランスで建つ為、容易なものではありません。建逃げを行う方向性を決め各棟と鉄骨の大アーチの手順を決定し、Tekla Structuresの工程管理機能で4Dシミュレーションを実施しました。またTekla最終データからNC用のデータ作成を今回初めて行いました。

3Dプリンタをいち早く導入し実務で利用していますが、BLTでは時間の制約上造形サイズについて妥協していました。今回チームに丸紅情報システムズが参加し多拠点同時造形により大きいサイズのRP模型にチャレンジ出来ました。

前田建設では発注者・エンドユーザーへMicrosoft Visioを使用した新しい竣工データの管理をご提案していますが、今回マイスターが提供するFMtoolsはこれを施設のゾーニングの分析にも活用しています。これらは設計のより上流の事業計画段階で使うことも出来ます。また今回BIMから得られる数量情報を元に長期修繕計画書の作成を行いました。前田建設が推進するTPMs(トータルプロセスマネジメントシステム)の一例です。

MはマネジメントのM

BIMという言葉は浸透しましたが定義がはっきりしていません。3次元CADを使う行為を全て包含する広義のBIMもありますが、前田建設では意匠・構造・設備・電気さらに内部の家具・什器あるいは人間までも全て統合し、ここから得られる情報を集約一元管理することがBIMであると考えます。BIMのMはモデリングの範疇を超えて、ここから複数のアウトプットとメリットを享受できます。設計事務所、サブコン或いは発注者と立場が変われば異なるBIMがあり得ますが、これらを全て統合するのがゼネコンの責務だと考えます。異なるアプリケーション間のデータ統合が要になりますが、鍵になるのはIFCです。当社もその可能性を認め徐々にIFCへ移行する必要があると考えています。今後企業間でのデータ相互運用が活発化することが期待されますが、データの信頼性実証など新しい課題も見えてきました。

最後に

これだけ情報に溢れていると言われる今日でも、BIMに関する正確な詳しい情報を入手することはネットや雑誌等含めても非常に困難です。その中でこのBLTは貴重な存在といえます。ICT技術の進化には無限の可能性が秘められています。私たちはBIMを通して「未来の建設業」を描けると信じています。

Build Live 2010
Build Live 2010


● Build Live Tokyo 2009 II

 BIMテクノロジー賞 

課題敷地   集合住宅(114戸、住戸面積約7030㎡)の架空の建て替え案

BIMによる実現可能な「可想現実」
異業種コラボレーションでBIMを発注者・エンドユーザーまで展開

Build Live 2009b
Build Live 2009b

更なるBIMとIFCの可能性を求めて決めた2回目の参加

チーム「SKANK WORKS(スカンク・ワークス)」は、前田建設工業、リック、テクラ、グラフィソフト、アドバンスドナレッジ研究所の前回BLTのメンバーに加え、マイクロソフト、マイスター、日野自動車という異業種をも含めた総勢40名が、 「実在する共同住宅の建替え」という非常に難しいテーマに挑みました。前回のBLTで既に高い評価を頂きましたが、イベント全体を見ても本来の目的であるIFCの活用が十分ではないという思いがありました。建築設計からさらに上流の企画段階、或いは竣工後の維持管理までをシミュレート出来るBIM、そしてCADや解析の様な慣れたソフトだけでなくさらにIFCの拡張された使い道はないか、という着目で新たなパートナーと組み、2回目の参加となりました。

厳しい敷地条件と課題内容に割れた2つの意見

高低差が大きく法規制が厳しい敷地条件、事業的に考えて確保すべき住戸数、これからの持続的社会への対応など仮想コンペでありながら非常に難しい課題でした。48時間に先立ち行われたワークショップの中でも、実際に建替えを期待されている物件であり事業的な現実性を求めるか、或いはそれは二の次にしても仮想物件として建築の可能性を求めるか、方向性は大きく2つに分かれました。

Build Live 2009b

3次元での法規のチェック

最終的には前回のBLTと同様で我々のスタンス、つまり通常業務と変わらない姿勢と成果品、が決め手となり、事業面も含めて「本当に建てることが出来る」計画を追及することになりました。これを我々は仮想現実をもじり「可想現実」というコンセプトとしました。つまり可能になる仮想だけで夢や豊かな暮らしを創出しよう、というものです。

入居権的スキームの思索と四葉の形態に至るプロセス

事前のワークショップは既存建物の分析と敷地の法規的な調査に始まり、社会問題としてのマンション建替議論まで思索は及びました。技術的に構造体(ハード)の寿命は延ばせますが、内包する仕組み(ソフト)を熟慮しなければマンションがスラム化するのを止められません。やがて我々は「大きさや間取りの異なる住戸を、家族構成の変化にあわせて住み替える」「この場所に住み続ける」というコンセプトにいたります。その時々に最適な間取りを選択できる「入居権的スキーム」を念頭に計画を進めました。また斜線制限・日影規制をクリヤし、より多くの住戸数を確保するためには外廊下型ではなく敷地の高低差に細かく対応できるスキップフロアの階段室型というアイデアが出てきました。四葉の形態をしたユニットが敷地の高低差に合わせてランダムに配された住棟のイメージにたどりついたのです。

Build Live 2009b

階段室ユニットのイメージ

BIMの力で何が出来るのか? 48時間で見えた「未来」

今回のイベントにおいて我々は建築計画はあくまで現実路線を貫くことに決めましたが、一方では前回には無かった新しい取り組みを盛り込みました。それは「異業種コラボレーション」と「未来のBIMの先取り」です。以前よりBIMについて発注者にあたる方々にご説明する機会はあったのですが、設計ツールとしての優越はあっても互いにデータを共有する意識は希薄でした。単純にゼネコンの内部で完結するBIMではなく、今回は発注者およびエンドユーザーへメリットのある「BIM3.0」を模索しました。それがBing MAPs、およびVISIOとのデータ共有です。

また昨今カーシェアリング等の新しい自動車とマンションのあり方が模索されていますが、果たして自家用車以外の魅力的なモビリティはないのでしょうか?今回新たに日野自動車をパートナーとして招聘し、コンパクトな二階建てコミュニティバス、という回答を用意しました。

Build Live 2009b

コミュニティバスのイメージ

バスを建物の一部として捉えることで、新しいバリアフリーや防災システムを発見できた、楽しい挑戦でした。

プレゼン資料及び図面のまとめ方は販売パンフレットの体裁としました。実際に全てをまとめると今回の仮想物件のパンフレットになります。

これは単にパロディとして行ったのではなく、先の発注者側のニーズがあり且つ実際に存在する入居者の方々にもわかりやすいことからの採用です。パンフに添付の図面もBIMモデルを利用して省力化を図っています。

進化するBIMと変えていくべき組織と業務フロー

今回仮想のエンドユーザーの要望に合わせてリアルタイムに住戸プランをカスタマイズする実験を目論んでいましたが担当がインフルエンザで戦線離脱し完結できませんでした。

そんなトラブルもありましたが、前回からの半年の間に主力のArchiCADはひとつのモデルを多人数で同時編集のできる、「チームワーク」機能を実装したり、風解析では技術研究所と計算サーバーを共有化しモデル入力と解析を設計側で行い考察を技研が行う新しい作業フローを試したりと大きく進化しました。

Build Live 2009b

施工計画のイメージ

また前田建設にも3D・シームレスチームが発足し、チーム内で施工の仮設図や施工図作成が行える環境となり、プレキャストの版図や施工シミュレーションを盛り込みました。

3D・シームレスチームについて補足しますが、前回のBLTから今回のBLTの間に立ち上げた新しい組織です。ここでは30数名のメンバーがBIMツールを用いて意匠・構造・ 設備の設計と監理、そして施 工図の作成を行います。ここでいう「シームレス」とは、設計図と施工図の境目を無くすという意味でBIIMで構築された情報を最大限有効活¥用することを目標としています。

このようにBIMをきっかけに業務フローや組織までも変化を始めました。BIMは単にツールに留まらず業務そのものを変革する概念となりつつあります。

また今回 IFC は私たちのデータ連携の中でより重要性を増しています。ArchiCAD、Tekla Structures、Tf@s等設計用BIMツール間でのデータ連携だけではなく、解析ツールであるFlowDesignerやエンドユーザー向けのVisioへのデータ連携にも使用しています。

Build Live 2009b

エンドユーザー向けソリューションのイメージ

まだこれらは完全な状態と言い切れるものではありませんが、それでも我々には既に「可想現実」以上の存在なのです。


● Build Live Tokyo 2009

 BIMグランプリ賞 

課題敷地   東京ベイエリア(豊洲)架空埋め立て地「環境技術研究センター」

プロフェッショナルなBIMワークフローの実践
透明性・信頼感のある技術力でBIMプロセスを展開

Build Live 2009a
Build Live 2009a

実務で積み重ねた経験と技術で48時間の極限状況に挑戦

チーム「SKANK WORKS(スカンク・ワークス)」は、前田建設工業の建築設計部門を中心にリック、グラフィソフト、テクラ、アドバンスドナレッジ研究所の総勢25名が、日常の設計業務をこなしながら参加しました。前田建設工業では3次元CAD活用は9年と歴史があり、実務の中で意匠・構造・設備の3次元データを統合することは、以前から行ってきましたがそれがBIMという言葉に変わった今日、自分たちの力が業界の中でどの様なポジションにあるのか力試しをしたい、というのが参加を決めた大きな理由です。

48時間で本当に設計できるのか 極限状況下でのブレイクスルー

意匠・構造・設備の連携に加えて、今回はRIKのランドスケープデータ統合と環境解析、3Dプリンターによる模型作成、そしてゼネコンが参画する以上は施工シミュレーションも行い、プレゼンテーションの資料には尺は短くてもCGアニメーションを作成することにしました。また図面を作成するか否かという点も悩みましたが基本設計で求められるアウトプットは網羅するという方針にしました。通常の業務であれば最速で2週間程度必要と思われるボリュームですがこれを複数の人間が複数の場所で同時並行で作業を行い48時間まで圧縮しなければなりません。開始までは工程表とにらめっこの時間が続きましたがこれはコンカレントエンジニアリングの究極ではないでしょうか。

48時間の極限状況化で見えたこと・叶わなかったこと

ゼネコン主体の参加チームとしては施工面でのBIM活用は必須と考えていましたが、最終日の限られた時間の中で検討した内容全てを絵にすることが出来ませんでした。実は敷地が運河に囲まれている特殊性から建設ロジスティックを水上から行うことだけではなく、仮設・重機の計画も従来例を見ないアクロバティックな検討も行ってはいたのですが、実現性の確証が時間内にとれずお蔵入りとなりました。デザインでは遊べても施工で嘘は付けないということです。施工を後工程ととらえず計画の極初期段階でも意識していく必要性を実感した訳ですが、これは現在の前田建設におけるシームレス設計の思想とも通じる部分です。

今回まず重要であったのは意匠設計の振る舞い方です。もっとも重要な初期の検討に時間が割けない為、いきなりベストでは無いにしても何がベターかと割り切り、構造・設備・ランドスケープの担当への情報受け渡しはブレないことが肝要ということが良く判りました。

また環境解析の場面においてはただ解析ソフトを使ったということだけでなくそれが計画にどうフィードバックさせるか、という点でしっかりとした考察が必要であると気付かされました。最終的に3Dプリンターでの模型作成まで紆余曲折ありましたが完遂しました。

Build Live 2009a

3Dプリンターによる模型

そして48時間の極限状況は単なる日常業務の延長では判らなかった自分たちの長所と弱点を明らかにしました。これは今後の大きな糧になるものです。

Build Live 2009a

長所の一つTekla Structureの運用

BLT独特の楽しみ方と苦労 そして達成して得た自信

今回課題の条件は比較的自由度が高いものでした。日頃制約が多い実物件に頭を痛めている我々にとっては純粋に「楽しめる」要素といえます。また前田製作所の「かにクレーン」のオブジェクトを作成し仮設のプレゼンのアクセントに使うという遊びも行いました。

BLTの特色の一つは互いのチームの成果がイベント中リアルタイムに判ることです。当初引いていたタイムスケジュールでは十分睡眠時間も確保していたはずでしたが、初日夕刻に他チームの状況確認を皆で行った後でそれは大きく変わってしまいました。通常の業務で行うコンペではありえない事態です。肉体的には大変苦労しましたが、我々と異なるアプローチは一方で大変刺激になり、その後の進むべき方向性に少なからず影響を与えています。

一番うれしかった点は、私たちが行ってきた業務フローが48時間でも実現できた、という点です。今回のコンペで再認識できたのですが、それぞれの担当者が実務の中でBIMのワークフローについてほぼ理解できているという実感が持てました。これは大きな自信になります。

Build Live 2009a

計画建物全景(夜景)

取り組んではじめて判る世界 そして終わりのない進化

BIMはまだまだ誤解されているのではないかと感じます。ともすれば万能のツールという印象を与える売り文句もありますが、完成されたツールというものは使いこまれて目的・用途に合わせて研ぎ澄まされたものと考えます。足掛け10年程取り組んできましたがその点ではまだまだゴールは見えません。

また一部の方は所詮設計CADが多少変わるだけではないかという印象をもっている様ですが、従来の2次元CADを用いたフローで 48時間以内にこれらのアウトプットを揃えることは、不可能でしょう。

CADの標準、いわゆるデファクトが決まるまで様子見をするという方もいますが、今回のBLTを通しても実証された様に48時間の作業フローの鍵となるのは異なるアプリケーション群を使いながら、例えばIFCの様な中間ファイル形式を活用しデータの連携を図り運用できるか、という点です。つまり現時点でそれぞれのツールの良し悪しについて差異はありますが終局的にはそれら全てをパッケージで考えていかなければなりません。これはつまり参加チームが10あれば10通りのアプリケーションの組み合わせがあるわけですから、こればかりは取り組んだ者しか判らない世界だと言えるのではないでしょうか。

当初は 「力試し」の目的で参加したBLTでしたが結果的には様々な効果を生むことになりました。以下に簡潔に整理します。

① それまでの作業フロー 上のボトルネックを認識することが出来た。
② 保有するソリューションの長所・短所を客観的に 把握することが出来た。
③ 若手職員のトレーニングとなり、結果的に社内へのBIMの認知を広めることが出来た。
④ IFCの有用性について再認識し、今後の開発への足掛りとなった。

これら全てをBLT抜きに行っていたら2年は掛かる内容だと認識しています。社内へのBIMの認知という点では時間は要していますが、確実に化学反応の様に広まっています。

またIFCについての考え方も、当初考えていた以上に使える、という認識に変化しました。実際にBLT以降のいくつかの開発はIFCを中心に行っています。

これらの成果がたった48時間のイベントから生まれたことは、我々の業務の中では「カンブリア爆発」が起きたことに等しいのです。