ICI建築講演会「西沢立衛 建築を語る」が開催されました

2025.03.28

2025年2月3日に前田建設本店にて、ICI建築講演会を行いました。ICI建築講演会は、広く社会的な活動を続けてこられた著名な建築家をお招きして、前田建設の主催で年2回開催する講演会です。プロデューサーの安東孝一氏による講師へのインタビューを通じて、これからの社会における建築のありかたとデザインの問題をトータルに考えます。3回目を迎えた今回は建築家の西沢立衛氏をお迎えし、建築について語っていただきました。90分のご講演と15分のインタビュー、15分の質疑応答が行われ500名を超える方にご参加いただきました。

講演会

増田友也が日本の建築について書いた本があり、その中には私が現在行っていることを予言的に書いていて他人事と思えない。過去の事を書いているのだが、今の私達の事のように読める。増田友也は“生命としての建築”、“建築は庭からやってくる”という事を言っている。また、日本の建築の歴史として増田が要約するには、まず自然があり、自然によって建築がゆがめられてゆく歴史ということで、自然がポジ、建築がネガということ。これを私たち建築家は、ネガであった建築をポジに置き換えていく。それが日本の建築の歴史であると、直接はそうは言っていないが、要約すると増田はそういうことを言っている。私の建築もその延長線上にある。自然との対峙ではなく、自然との調和を目指している。調和というのは、どちらがどちらに従属しているかわからない状態のことだ。お互いにお互いをつくり合う関係とも言える。自然が建築のありようを決めるし、また同時に建築が「自然とは何か」を示す。

豊島美術館
「自由曲線」が自分のテーマになった最初の建築。ある種の建築的テーマは、とあるひとつのプロジェクトで完結させることができずに、次のプロジェクト、更に次のプロジェクトへと問題が続いていくということがあって、たとえば自由曲線という問題は、それだった。自由曲線の面白さは、適当に変形させても自由曲線であり続けるといういい加減さ、開放性があることだ。今回の自由曲線は等高線をなぞるような形状で、フリーハンドで描いたような平面計画とした。断面計画も、閉鎖性と開放性を再現し、施工方法は、天井高さを抑えたので、足場を組むのではなく土型枠とした。最先端のGPSを利用して築山の形状を作る一方で、土方枠という古代人のようなアナログさのギャップは興味深かった。

唐招提寺など歴史的建造物を改めて見に行くと、自分がやろうとしていることが、より優れた形で実現されていたりする。そのひとつが、アプローチが建築を作るという事だ。

Grace Farms
ランドスケープ豊かな敷地で、地形に合わせて建物形状を作った。子供を中心とした機能があると、子供だけでなく親たちも来る。色々な人が集まってくるような建物を目指した。このプロジェクトでも造成というものをなるべくせずに、つまり自然を犠牲にするのではなく、環境に調和する建築形状を求めた。地形を利用した建築になっており、野原に演壇があるイメージだ。全体的に流れるような形となった。

小豆島の葺田パヴィリオン
神社の境内にカフェの客席を作った。境内に建築を置くということで、テーマは動く建築とした。2重逆アーチのような形状として、基礎がない、地面に置くだけの建築とした。天井高さは神社の境内より低く抑えた。

チリの別荘
自然との調和がテーマで、日本よりも自然がパワフル。海からの強い吹上げ風に耐えるよう、ボールト構造とした。ボールトを三つ連続させた。反復するボールト屋根は地形に合わせて徐々に形状が変わる。地形と調和する建築の柔らかさを表現した。

Garden&House  
ビルとビルの狭間の事務所兼用住宅。隣ビルとの隙間空間つまり外部空間が主役で、こちらの建築のほうが引っ込んでいくという意味で、ネガ的形状の建築をポジ的なものに置き換えようとする典型例といえる建築。各階に部屋と庭がある。また、機能が上階に行くにつれてプライベートになるように変化している。

ししいわハウスNo.3
日本の伝統建築でのホテル建設の依頼があり、できるだけ伝統建築の建築言語を使って設計を行った。例えば雁行であり、分棟形式であり、下屋、回廊、縁側、庭など。透明感のある、外と中が一体化する空間を作った。

シドニーの美術館別館
ニューサウスウェールズ州立美術館の北新館。ほぼ全面が人工地盤などの人工物の上に建築した建築。アートと同時に地形の変化も感じる美術館とした。本美術館は自営の美術館のため、収益を上げる必要がある。イベント開催が容易なように、公共空間を広くつくっている。

ボッコー二大学
ミラノの地元で有名な大学。ミラノの建築が持つ形式、中庭とポルティコ(回廊)を踏襲した。学校側から教室の平面形状は目の形がベストとのことから、それを反復した。環境配慮的にエネルギーゼロにする必要があり、2重の外壁を採用した。エキスパンドメタルを曲げて、支柱の無い形の外皮とした。

現在計画中の別荘
L型の壁をランダムにつくって、2重3重につながる形状とした。終わりがない形を考え、人の動線と風の通り道の回遊性を確保した。場所と場所が有機的につながっていく空間を作った。

済寧市美術館
公園の中の美術館。中国で仕事をすると、中国のスケールの大きさにしばしば感心する。公園の中ということで、大屋根の下のほぼ半分は軒下で、暑い夏に休める日除空間となっている。中国のレンガが大変美しいので、床と壁に中国のレンガを採用した。中国のスケールの大きさに見合う建築を目指した。

香川県立アリーナ(あなぶきアリーナ香川)
県民が日常的に使うことができる体育館であり、アリーナでもある。駅から歩いてすぐのところにある。イベントが行われていない時でも県民が活用できる空間をつくった。
アリーナ空間とホワイエ空間が壁で分けられず一体となっている。また海が見えるという土地の特徴を活かし、水平方向の眺めの良さ、透明感を重視した。


インタビュー
①建築家として何を一番大切にしているか。
⇒西沢氏:建築には生命力、人間の力が必要。使っている人間のパワー、生命の中心地を作りたいと思っている。しかし他にも一番大切なものはいっぱいある。

②建築家になると決めたのは何がきっかけか。
⇒大学で建築を学び、また大学の外で伊東豊雄さん、妹島和世さんといった人々に出会う中で、建築家になることが徐々に決まっていった。妹島さんは、借りてきた言葉は言わない。むかし妹島さんは「自分の思っていないことは言いたくない」と言って、私は本当に驚いた。建築の組み立てるということは、人間の考えを形柱・梁・壁・天井といった部材構成に置き換えてゆくことで、それは考えを物にするという意味では具体化といえるし、また人間の考えという複雑な存在を単純な関係性に置き換えるという意味ではに抽象化とも言える。つまり建築創造では、具体化と抽象化が同時に起きる。そこに建築家の個性が現れる。他の建築家の組み立て方は知らないが、私はその組み立て方を、妹島さんから学んだ。妹島さんの個性はいろいろあるが、基本設計の最初で勝負を決める人だ。それと矛盾するようだが、妹島さんから学んだ最大のことは、基本、実施から現場まで頑張る、あきらめない、ということだ。人間の労働の総計が建築の力になると、妹島さんは考えていると思う。


質疑応答
①エンジニアとのコラボレーションをどのようにとらえているか。
⇒施工の方と仕事をするたびに思うのは、設計より施工の方が面白いということだ。フランク・ゲーリーはかつて「どんな凡庸な建築でも工事中は創造的だ」と言っていた。建設の創造性、現在進行形のダイナミズムはすごい。設計がただの絵空事に感じてしまうくらいだ。

②建物の目的の一つに快適な建物をつくるということがある。省エネについてはどう考えるか。
⇒省エネは重要だ。資源を大量に使ってエネルギーを浪費するのは、モダニズムの精神に反することだ。また省エネは科学である以前に文化だ。各地域で違うやり方になるはずだ。

③西沢さんにとってのAIは?
⇒今のAIは、過去の情報を元に作っているのでさほど創造的ではない。ただ2年後は分からない。
事務局より

改めて西沢先生、ご講演いただきありがとうございました。
第3回ICI建築講演会も多くの方にご参加いただき、盛況のうちに終了することができました。ご参加いただきました皆様、改めてありがとうございました。ご興味のある方は、今後も同様の講演会を継続して開催してまいりますので、ぜひお申込みください。

なお、本講演会のアーカイブ配信はございません。ご了承ください